阿部ちゃん/草野大悟2
 
お爺ちゃんも、お父さんもそうだった。
僕たちの仕事の要諦は、嘘を本当にしてしまうことだ、と言っていた。
そんなこと小学生の僕に言うなよ。
どこかに遺伝子の記憶があったのか、明らかに嘘と誰にでも分かるだろう、
と思って僕はオリンピックプレゼンテーションで明言した。
「放射能汚染は東京には及びません。完全にブロックされています」

阿部ちゃんが嘘を重ねる度に、原発の現場は蝕まれる。
阿部ちゃんは、放射能はもちろん、生きる怖さを知らない。
彼は、産まれたときから豊潤の暮らしを続けてきた。
頭は悪かったけれど、金があったし、名門という印籠があった。

さて、今日、ここに久しぶりに出て来たのは、今の、この時
俺たちは阿部ちゃんに何も言わずにいていいのか、
という素朴な疑問ゆえである。

相当にやばい日本は、いつまでもつか、そう危惧する。
われわれ物を書く者は、
野田から阿部ちゃんに移っても
何も変わらないこの国をあやつるアメリカの
強大な我が儘に気付かねばならない。

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