アールグレイのこと/栗山透
か
良いことも悪いことも
なんとなく 感じてしまう
手を見ていること あなたは知ってる
同じように感じ取っている と思う
「ぜんぶ分かるんだね」
あなたは言う
夜になるとやはり肌寒かった
ふたりとも
ストールをぐるぐるに巻いている
雨上がりの空には
ぼんやりと月が浮かんでいた
月と夜空のあいだで
うすいトーンの光たちが
雲を冷たく照らしている
まるで体が
ふたつに割れたようだった
ここにいるけど何処にもいない
声は聞こえるが 形は見えない
規則的な波の音が聞こえる
涙みたいな潮の香り
どうして君は
そんな優しい顔をするのだろう
海を見ながら君は
ほとんど表情を崩さなかった
泣きそうなのは雰囲気で感じるのに
夜の海はとても寂しい
僕は温かなアールグレイのことを考えた
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