セザンヌ/栗山透
ゴロツキさんは言いました。
「なあ、タケル。
この部屋にあるものは全部
おじさんが作ったんだぞ」
全部?
タケルは不思議に思いました。
全部って言ったって、
ここには何もないじゃないか
ゴロツキさんはニヤリと笑って
部屋の中を見回しました。
「このテーブルも、このイスもだよ。
裏の森から木材を刈ってきて作ったんだ。
壁にかけてある油絵も、
おじさんが描いたんだよ。
額も自分で作ったんだ。
ちょっと不恰好だけどな。
でも、絵はなかなか上手いだろう?」
タケルはますます不思議に思いました。
なぜなら、この部屋にあるものと言えば
四方を囲まれた白く塗られた木の壁と、
小さな飾り窓だけだったからです。
タケルはゴロツキさんの目を
じっと見ました。
そして、
何の絵を描いたの?
と聞きました。
ゴロツキさんは
西側の白い壁をちらりと見て
「紫色のおじさんだよ」
と答えました。
紫色のおじさん?
タケルも西側の白い壁に
目を向けました。
「セザンヌっていうんだ」
セザンヌ?
「そうだよ、
セザンヌは歌がとても好きなんだ」
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