夏秋/マチネ
私の歩いてきた
この道の
この蒸し暑い大気の中に
いまだ蝉達がさざめいているのに
この道に立つ私の
かぼそい足の突端の
この黒いスニーカーには
もう蜻蛉が止まりはじめる
蜻蛉は
光を受けて虹を映した
半透明の羽根をふるわせ
「こちらへおいで」
と私を誘う
(そのはかない光彩は
しばし
私の脳を麻痺させ
なまめかしい気分にさせる)
私は蜻蛉と行こうと決める
それだのに
私が足を動かすと
全く静かだった蜻蛉は飛び立ち
瞬時に夏の空へ消えていくのだ
取り残されたこの道で
いまださざめく蝉の声を
放心の私が立ちすくんで聞いている
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