対話篇 (花)/マチネ
 
向こうの椿は鮮やかであるとあなたは言った
足元を蠅が行過ぎた
蝦蟇(ガマ)が捉えて
粘つく口で接吻をした
向こうの椿は鮮やかだった

こちらの躑躅(つつじ)は枯れ果てているとあなたは言った
指先に蜂が吸付いた
針が捉えて
柔らかな肉の丘を抉った
こちらの躑躅(つつじ)は枯れ果てていた

(風の吹き行く)

そちらの桜は鮮やかなのかとあなたは訊いた
唇に付されたプラスチック
声を捉えて
ざらつく砂にすり替えている
こちらの桜は振り落ちている

どこの椿が落ちずにいるかと私は訊いた
心臓に突き刺した脈動器
血汐を捉えて
埋(うず)もれた朝を叫んでいる


こちらの椿は鮮やかである



あなたが言った


足元を

蠅が

行き過ぎた




あちらの椿は鮮やかだった



かぜ、かぜ、かぜ。
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