無題/すみきたすみれ
 

渋滞を悪化させ、信号を無用にし、
ドライバーの神経にいくつも雷を落とした。
なれないクラクションと窓越しの手振り、
その手が中指を立てていようが、
雨粒で霞んだ窓越しではわかりやしないと、興奮した子供は
堂々と舌をだし、瞼を捲り、
硝子に頭突きを繰り返す。
考え事にふけるとそうした表情が目について、
眼鏡を外すと形相を変えて顕わにする、
みずからの軽々しさを。
そして事故現場の横を抜けるとき、
血まみれの横顔に、誰ともわからぬが見覚えがあり、
しばらく見とれ、毀れた蜻蛉玉を噛み潰したことを思い出す――
信号はまたも無用、渋滞はまだ伸びているところにすぎない。
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