猛暑の記/マチネ
トタン屋根は大気を焼き
雨を含んだ杉の木を溶かしている
杉の葉には微細な虫たちが
ひどく痩せた足を這わせているはずだが
私には見えない
ポリエチレンにとらえられたカブトムシがもがいている
柔らかな袋は右手で揺れる
白色日光は大地を焼き
つぎはぎされたコンクリートを焦がしている
交差点にはうつむいた人々が
ぐずぐずのかたちで蠢いているはずだが
私は知らない
あだめくような吐息が交わる
帽子のつばに阻まれて消える
夏が殺していく
それら生物の温度を
私は知らない
麦藁帽子の陰に隠され
指先がふるえている
触れえぬ生のあつさに
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