山辺の道にて/マチネ
山女の実を一つもいで、隣に立つあなたにあげる
眩暈の先で揺らぐあなたに
輪郭の消えた右手の形が
たしかに山女をのせている
はりつめた耳鳴りの向こうで、あなたが何かつぶやいている
いましがた消えた雉の居場所を、すぐあなたに教えてあげる
藪の奥に目を凝らすあなたに
鉄塔のように伸ばされた背中が
ゆるやかに
ぐわりと
たわんでいく
はばかるように、くぐもった声であなたは言う
「なにも、いやしない」
独り言のようなその声の、その隣に
誰か、
私がいるということを
あなたは知るまい
藪の奥にいる目よ
その声よ
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