彼は語る/ゆったいり
ぼくの頬を撫でる風は、彼の息吹だ
空に輝く太陽は、彼の瞳だ
向こうにそびえる山並みは、彼の肉体だ
彼は語る
空を震わすあの曲に
ぼくらのこころも震えたならば
彼の歌声を確かに聞いたのだ
魂を文字に刻んだあの文に
伝わる何かがあるのなら
それはそのまま彼のことばだ
彼は語る
思いがけない出来事に
知らぬ自分が見えたなら
彼の語りが聞こえたのだ
彼は語り続ける
彼は姿を持たないけれど
声も顔も持たないけれど
誰かが刻んだ箴言で
笑いさざめく木々の声で
ふと目にした色や数字で
そう、巡り合わせたもの全てで
彼は語っている
彼は語り続けているから
私たちは
だれでも
いつでも
どこでも
彼の声を聞き
彼の表情を見て
彼のことを
ほんとうのことを
感じとることができる
彼は語る
彼は、語り続ける
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