霧の町の断片/飯沼ふるい
 


正確な円い輪郭を、灰色に淀んだ空にくっきりと浮き上がらせる
午後の弛んだ日射しも少しばかり傾き始める
根深い霧がこの港町から抜けることはなく
ここでの昼とはほんの少し明るい夜のことを言う



赤茶のレンガで積まれた製氷場の倉庫の向こうで
海猫が気ぜわしく鳴いている
波止場に打ちつけられる波飛沫は
異邦人たちが流す汗と同じ匂いがする

製鉄所のバースを発とうとするタンカーが汽笛を鳴らす
重くて暗い音がいつまでも響く
誰も聴く人などいないのかもしれない
バラスト水を吐き終えても
いつまでもタンカーは進まない



港から少し離れた公園にも
潮風
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