もつれこむ/
 
漠の夜空のしたに、寂寞とした夜の袂にいる。質量の大きすぎる夜が涅槃図のごとく横たわる。月も見えないで、輪郭としてぼやけた自分の手が、指の境目をなくしてひとつの塊になっている。瞬きを自分がしているのか夜が行っているのかわからなくなったころに、彼女の髪がぼくに降り注ぐ。ぼくは逃げ続ける。網雨が辺りに満ちる。彼女は非常に危ういバランスで足取りを続ける、流砂に足をすくわれないように、泥濘に時を止められないように。砂漠のど真ん中に立った一本の電柱、その周りを回る虫たちの死骸は遠い沖合いを夢見ている。きっとこれらの死者たちはあの淡い腐敗のただ中で彼女の視線に乗せられあの海へ行くのだろう。そしてその思念によって、ぼくは立ち止まってしまった。「ねえ」声がする。神官に見竦められた寒さが月の光でわずかに崩れた。「もう過ぎたんじゃないの」ぼくは電車のなかにいる。彼女の目が少し濁っている。過ぎてないよ、と言った。連結部分が軋んで、そのあとの音は、
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