鎌倉 縁切り寺/和田カマリ
紫陽花が長い雨を腐敗させる
6月の暗い休日
僕は母と二人で鎌倉を歩いていた
有名な縁切り寺を目指して
放蕩を重ねた父のせいで
僕たち家族は離散していたのだが
未だに借金だけでは繋がっていた
そんなねじれた腐れ縁を切るために
そぼ降る雨の中をうつむいて
ざくざくと歩いていた
老境ながら住み込み家政婦をして
つらい生計を立てている母
そんな彼女に楽をしてもらう訳でなく
僕はひとり会社の独身寮に入り
毎日工場で無為に過ごしていた
僕は人生を頑張らなくても良かった
だって父の借金を返していたのだから
体たらくであっても良い理由
自分の将来と向き合わない理由
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