日暮れ刻/イナエ
 
 
路地裏を通り抜ける豆腐屋のラッパは
夕暮れによくにあう

かくれんぼの時間が削り取られて
ひとり帰り ふたり帰り 
隠れたまま鬼から取り残さて
気がつけば夕闇につかまっていた
どこの街角からか追いかけてくる 
トーフーゥ トーフウー
がぼくを家に送り届けてくれそうで
  
  遊びともだちの消えた路地奥に
  小藪の蔭に人待ち顔に立っていたのは
  足を井戸に捕まれた汲み上げポンプ

冬が再び来たような薄ら寒さ 
人さらいに追われるような恐怖
急いで帰った六畳二間の家 
卓袱台のまえに座っている父の
背の大きさ 暖かさ

  帰る家は遠く とおくへ去
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