200円のコノテーション/飯沼ふるい
瞬き、膨れ上がる眠気
カッフェーで向かい合う恋人の
片割れが言う
「モカ」
という音韻に倒されて
睫毛から鱗粉が発火する
それは、春に降る雪のようにこぼれる、というが
一秒の、線分の上に絡め取られて
橙の幼い鱗粉
チリチリ燃える
朝のまだきに生れ指ばら色の曙の女神が
朝食代わりに品書きのインクを卑猥に啜る
朝、たったそれだけの文字を誘拐した文庫本は
閉じたまま
未明の沖で漂っている
カラスが骨のように鳴いているのは
鱗粉の遺り香に惹きつけられているから、らしいが
枯れ枝のような声色は
哲学を勘違いした
死に欠けの震え
夕方、その一つの季節のような
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