しみついた匂い/加藤
街灯が照らす夜道を歩く夢を見て
人並みと揺れる風が小さくひらいた花びらを落とす
目がさめたら残っているものがあるだろうか?
思いは遠い過去にあるけれど
今日の瞬間も必ず遠い過去になる
忘れるままに残るままにあるだろう
さびしいのはかざりを持っていないからじゃなくて
そんな心を持っているから
殺風景な部屋に少しする苦い匂いは
どこからともなくして頭に満ちる
それがもういやでもないのは
自分に似合うものだと知っているから
夜眠りにつくと遠い過去がゆっくりと
甘い香りの花びらを連れて現れる
いつも泣く声をこらえて喜んでいる
気色悪い動物の自分だった
やわらかい光に照らされて優しい時間を過ごしても
体は光にとけて消えない
いつも気色悪い動物の自分だった
それがもういやでもないのは
馬鹿になったからじゃない
夢の向こうに居続けたわけでもない
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