名医/イナエ
 
               
名前を呼ばれていつものように 診察室に入る
顔も見ないで どうぞと言う医師
顔も見ないで 
 「不整脈は 落ち着いているようです」
と言いながら シャツをぬぐぼく

両手首 取って脈を調べる医師に
 「耳鳴りが二重奏になって」
 「耳鼻科は行ったんか」
 「治らん言って 相手にしてくれません
  冷たいもんや」
  
聴診器の動きが胸の上部で止まる
 「あれは 命にかかわることないでな
  まあ賑やかでええがな 
  はい背中」
  「そりゃまあ賑やかですけどね」

向きを変え 話題も変える
  「この頃物忘れがひどくて
 
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