わたしは猫になりたい。/凍湖(とおこ)
梅雨の雨に打たれても
冷水のごとく頭を冷やしてくれるでもなく
ただじっとりと皮膚細胞の表面を融解させていくだけなので
五月雨には稀塩酸が溶けている。
猫は命が九つあるというが
命を七つくらい使ってはじめて
命の意味について考え始めるので
猫が無邪気かつ存分に生命を謳歌できるのは
精々、最初の三つの命まででしょう。
猫の自意識が芽生え、閉じられようというとき
猫の目は金色にぴかりと光り(それは竜の目にも匹敵するような鋭さ)
雨垂れのとりとめもない、びちゃびちゃした音にも
なにかしら、深淵な音楽性を見いだしているのかも知れず
わたしは九生有る猫になりたい。
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