↓( )/ディレッタント
 
「あんたおかしいと思うよ、たぶんね」

 耳元で囁いているトム・ヨークの台詞は意味を持たないから、ゴミ収集車のにおいがまったくミルクなのも仕方がない。

 年季の入った木造に挟まれた道を行く。枯れ葉も見せないセメントを風が撫でる。一昨日に買ったコートの信憑性をあざ笑っていた。

 すみきった視界の先に何かがあるような気がして駆け寄ってみると、十字路の手前で「止まれ」のマークが薄らいでいた。チューインガムの味がなくなっていることに気付く。

 首筋の動脈が波打つ。とてもやさしく、ぬくい。

 パンクした自転車をこぐ少年とすれ違った。自転車は「止まれ」を踏み散らして消える。


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