空舟は希望する(うつおぶねはきぼうする)/こしごえ
 





私はすでにいない 生まれる 前から

アフリカ黒檀製万年筆のミトコンドリアは
蜻蛉の櫓で漕いで行く。透けた羽の内部は
暗く光る言葉を発している
それは
すべてを聴く耳にも届かない。選んだのだから

六時五十七分と明記された文末を
無人の無限軌道は踏みしだき通過する
やあ こんにちは、行方不明の最後を
むかえるすべての最後は、
暗く光る言葉に金の縁取りをする
永い時が過ぎ去った今
誰独りとしていない誕生日

不在を乗せて波間を漂う
幽かに明滅する
素肌はひんやり
空の境も無く 雲が昇る
ひとすじ
しん、としていると冬の心音が聞こえて来る
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