3月。/もずず
 




帰り道

歌おうとした声が
切なくて

歌おうとした音が
次第に耳から遠ざかる

きっと酸素は心臓にまわっていない
故にハンドルを握る両の手指さえ

切ない
切ない

それでも
生は
強かに私の眼前に横たわり

気づけば

夕食のことを考えてみたりする

生きることは
死を纏うことなのに
ちっぽけな理由を付け足しながら
生命力を這わせている

次第に
ゆっくりと
指先から切なさは消え

腹は減り

笑顔は溢れ

小さな奇跡は

見えなくとも
伸びやかに

次の一歩に息づく

だから

だからこそ


人生は素晴らしい




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