吊り橋/イナエ
 
吊り橋の真ん中で二人は懐中電灯を消した
月も山の木立に光を隠した

手を延ばせばそこには異性がいた
何時も顔を合わせている相手だったが

不意に訪れた二人だけの世界に戸惑って
互いに黙ったまま
闇に沈んだ川の方を眺めていた
二人の間にせせらぎが流れていた

ほんの少し風が吹いて バランスが崩れたら
お互いがもっと身近になっただろうに

風も緊張してか そよともうごかなかった
吊り橋は身をかたくしてゆらりともしなかった
二人は無言で 星の見えない空を見上げた
二人の中をいくつもの言葉が
せせらぎに乗って流れ去った

二人は言葉を無くしたまま
どちらからともなく橋を渡りはじめた
吊り橋がかすかに揺れた 
けれども…

二人は たがいの距離を保ってゆれて渡った
あかりもつけないで

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