はじまりはいつも、はじまりすぎている。/凍湖(とおこ)
赤ちゃんの髪の毛のように頼りなく
やわらかい抱擁に
「あい」というなまえをつけてみるこころみ。
おずおずとしたやさしい腕の持ち主を、見上げる。
いちねんまえの初夏の木陰で、透明な涙が光っていた頬と、おなじかお。
たぶん
まぎれもない
あなただ。
一分のすきもなく、あるいはすきだらけなので
この頼りなさで、稲妻のように卒然と悟る。
ずっとまえ、いちねんまえ
ううん、それよりもっともっとまえから
このこころみはすでに、はじまっていたのだ。
雨水が、地下で合流し、やがて湧き水になるように
目にみえないうちに、はじまって
気がついたら、燦然と、在った。
いまこのように、劇的に、ずっと。
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