言いたかったことはぜんぶ、/飯沼ふるい
そっくりだ
そう思うと
風(という名詞
匂い(という名詞
次から次へ
淀みなく消えていく
新しい初夏の感じが
皮膚を透かして
胃の腑を不快にあたためる
猫の腐臭も、彼の汗ばんだTシャツも
それらを感じた僕も
過去形に埋もれた、砂
碧い海に呑まれて
それらはいつか新世紀の
新しい呼吸に馴染んでいく、だろうか
青白い空に
置き去りの自分よ
ここから帰れば
きっと僕は
熱にうなされながら
自慰に耽る
戻らないため息を悔やみながら
キスを交わして
失われた果肉を
膣に求めて、なんて
そんな嘘で
息を荒くして
何度も繰り返し
身体中に
壊疽を拡げる
言いたかった
何も言えなかった
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