野火/飯沼ふるい
夜は暗い
地平の涯まで
音の無い破砕が続いている
彼は農場の納屋の中で眠ろうとしていた
それが懲罰の為か
彼自身の性癖の為かは
今となっては分からないし
彼の履歴を辿るのは
有りもしない言葉の意味を
解こうとするのに似ている
納屋の隅に
萎びた蝿とがらんどうの玩具箱とが転げている
くすんだ赤い塗料は剥がれ
捻じれた口を開け
記憶の放たれたブリキの残骸
つまらないその箱は
そのつまらなさの為に
彼を無性に悲しくさせた
起き上がり
彼は
牛酪ナイフで脹脛を削ぐ
肉の裏をナイフの腹が滑る
血が吹く代わり
農場の外れで夜と佇む
老いた一木の松
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