カーテンコール/岡村明子
夕焼けに
あなたをひたしておいたのは間違いだった
体の重みが邪魔でならないというように
身をよじって窓辺のベッドに横たわる
へそのくぼみから腰骨
肩甲骨
うで
まるく光る乳房
あごの下の痣
ねっとりとした赤い闇のなかで
あなたの発散する湿度が
僕を息苦しくする
ステージの上
あなたはいつも三列めで
モーツァルトだろうがマーラーだろうがアンダーソンだろうが
眉根にしわ寄せ泣きそうな顔をしてヴァイオリンを弾いていた
あなたの動かす弓はちっとも窮屈そうでないのに
立ってお辞儀をするときは神経質に身の置きどころを確保していた
僕はカーテンコールの華々しい余韻の中
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