少年と空 ハンドルの正面と歌/チャオ
空を見ていた少年が、
昨日口にしたきのこの切れ端を
歯の隙間から取り出した。
対向車線の運転手は、少年の歯の隙間から出てきた
きのこの切れ端を、見つけたのか、
見つけないのか、
自分のつくったきのこの切れ端の歌をくちづさんだ。
そのとき、太陽の時間は、一億年の歴史の前で、小さなほくろを増やしただけにとどまった。
追い越した時間が、昨日の少年と今日の少年を並ばせる。
運転席に座ったもうひとつの時間は、きのこの切れ端が地面に解けていく景色を見ているように歌う。
忘れたように少年は話しかける。
気がつかないように、少年は答える。
まだ、世界は平らな時、
月は輝くことを忘れなかった。
まだ、きのこが、切れ端にならないとき
少年の心は、空を捕らえはしなかった。
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