儀式番外 父の忌明けに/イナエ
古いアルバムをひろげ
遠い国の人を見つめるように
父や母の写真を
一枚いちまい確かめている妹よ
おまえを世に残して消えてしまった母の
記憶がないからと言って嘆かないでくれ
ぼくの中のおまえの母は
夕方の薄暗い小さな台所の 裸電球の下で
家族の夕食をこしらえているけれど
顔の見えない墨色の影
その後 母はどこに行ったか
ぼくの中から消えてしまったー
母が おまえを産んで亡くなったと
聞いたのは 四歳の頃
葬式も 別れの記憶もないけれど
今は想像できる
生まれて間もないおまえを
抱くこともできないで
逝ってしまった母の{ルビ情=こ
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