儀式1 喪失/イナエ
 
 

病室に眠る人の腕に滴下する液は
機能を失った腎臓をすり抜けて全身を潤し 
枯れた膚に青く透けるような艶と張りをみなぎらせた

目で合図を送って廊下に出た医師は
一緒に出た家族に覚悟を迫る
「出来ることは全て行いました
 このまま点滴を続ければ内蔵が溺れてしまいます。
 これからは薬で痛みを抑えるだけで あとは…」

命をベッドに繋いでいた様々な鎖が解かれた
老人は薬品に頼った健康な笑顔を 
周りの人にみせ 夢を甦らせる 
「明日は帰れるな」

そう明日は… だが…

これからはじまる儀式に備えて
昼も夜もなく看病していた家の者を帰し
彼ひとり病室に残
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