弔辞/yo-yo
父が商人になったきっかけは
一本のから芋の蔓だったのです
長男だった私は
そんなことを弔辞で述べた
そばで母や妹たちのすすり泣きが聞こえた
その前夜
父はきれいに髭を剃ってねた
どこかへ出かける予定があったのだろう
だがそれきり
目覚めることはなかった
春浅い夜ふけ
寝たままの父を家族がとり囲んだ
寒いので父の布団に手足をそっと入れる
体に触れると
凍った人の冷たさがあった
から芋の蔓が大事な食料だった時代
大事な金銭のやりとりがあったのだろう
父はそのことを息子に話した
金を儲けることは楽しい
商売は一番だと
冬は練炭火鉢
夏はお中元売り
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