駅で。/凍湖(とおこ)
 
どこもかしこも駅なのです。通過点で、とどまれない。
数瞬、隣の人の肩とふれ、見知らぬ生活の匂いと、わたしの皮膚細胞とが、ほのかに混じる。それは、一個体として存在する孤独の、群れへの譲歩。
わたしの肩にもたれ掛かる、発酵し、醸成された、その人特有の薫り。その人のいままでのすべて。その一部をほんのすこし、頂く。
どんなに近く、肩を寄せあおうと、享有するとは、ほんのすこし。せいぜいスプーン一杯、それだけなのです。だから、どんな交歓も限定的、いつでもあたらしく、ぴかぴかと可能性に満ちている。

けれど
通過点でないところはないか、探ってしまう。
終着駅を。
化石のように変わらず、ずっと在り続ける場所を。
おわりのない交歓をする、ゆるやかに個の輪郭線がほどけ、限界まで存在が希釈され、周りとすっかりいっしょになる場所を。
そんな場所には、きっと出口はないけれど。

それでも、きっとだからこそ
おわりが来るとわかっていても
あなたの体温は有り難く
その稀少な時間が爪先からせりあがる日常を、ずっと愛しく抱きしめる。
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