もっと生まれたら/一尾
 
冷たい白磁の壺にやさしさの
残骸のようなぼんやりとした液体を
注ぐことだけを生業とした
美しい星座みたいなものに生まれたらよかった



燦然と朝露にかがやいている
白爪草の無音の花弁のかたちを毎年
捻出してクローバーの上に振り掛けている
魔法のウサギみたいなものに生まれたらよかった



誰かが燃やしてしまった国語科の
ノートの切れ端から薄い鉛筆の跡を
ぬすんで砂に埋め立てて感傷の栄養にする
残酷な放課後みたいなものに生まれたらよかった



噛みしだいた写真から滲んでいる
インクのごとき不明瞭な無遠慮を
他人の眼に宛がって遊んでいる
もうすぐ死ぬ小鳥みたいなものに生まれたらよかった



わたしを取り巻くとりどりの彩りの
手触りの柔らかさと
眼を焼くような冷たさと
ざらざらとした歯触りと
張りつめて劈いている音などが


もっと鮮明に

もっと鮮明に

もっと鮮明に

もっと鮮明に


感じられるような心臓を持った
やさしい人間に生まれたらよかった
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