麩を買う老人/村正
 
焦りと不安が狂わせた

備えという名の独占

街から安全な水が消えた

走り回るのは血眼の乳母だ

理不尽がまた増えた

臨界点の明滅をみる

なにもできないままで

空の売り場を整える

目の澄んだ老人はただ歩く

殺風景を気にもとめずに


「焦ることなんかない」


そう諭してレジの方へと消えた

あるものがすべてだった

後にはそう思い返すようで

偉人の言葉を塗り替えていく

常々フラッシュバックする

あんな風に年を取りたい

受け入れ方は

しわの数で円熟していく
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