落命/三田九郎
雨音に目を閉じる
雨粒を受けて揺れる枝先
こぼれ落ちる花弁
夜の闇
面識のない知人の母の死を思う
嵐の来る日の前の晩
帰路
桜並木との交差点で
信号に照らされる君を見つけた
君を照らすためではない灯りに照らし出される君は
明滅する信号を 通りを
行き交うものたちを 闇を
普段着で包み込む
用意されていたわけではないものに
美しさを告げられた夜
雨音に目を閉じる
君は散っただろうか
命は去っただろうか
知人の母は死んだばかりだ
ぼくらはまだ途上にいる
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