東京へは行けなくなりました/蒼木りん
 
夜の街の象徴で
すれ違う人の酒の匂いや香水の匂い
家庭や会社とは別の顔をしたコート姿の男や
水中花のような女が漂って
何処に向かい
何処に帰るのか

東京は
知らない

行くはずだった
私の知らない
私を知らない
東京

都会はどこも
人に使い古された匂い
駅も
劇場も
ホテルも
コンビニエンスストアも
道路も

ダストボックスの口に
プラスチックが溢れてもがく
薬臭い清潔
お湯も水もカルキ
肌が痛い
コーヒーは
香り豆の焦げを溶かした
お湯だ

改札は抜けられなかった
行ってしまうしかない扉へ
切符も持てずに


「東京へは
 行けなくなりました」

あなたとなら
迷わずに歩けたのに
煌びやかな電飾の街

完美と醜悪
自らを刺す刃の先
その街のただ中に


残念だ

私は終わりかもしれない


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