老いたる道を下る/オイタル
 
私は
懐かしむことさえ失って
平坦な老いの道を
砂利を蹴ってどこまでも下る
風が
少年の肩に止まって
じっとこちらを見ている
花も 虫も

空は寒々と光り
びしょ濡れの雲が
ゆっくり地上に降りてくる
街中もう動くことをやめ
大人たちの 子供たちの
優しい言葉に怯える黒塗りの花々

素手で雑巾をしぼり
ひとり黙々と便所の床を拭くことが
どんなに慰めであり
救いであることか

手を休めてふと窓を見上げると
天上はいつのまにか白く乾き
黒雲は虚しく 天道を戻っていく

なぜそんなにも
生き延びなければならないか
過去さえ凍る 冷たい細い窓から
朝の光が横顔に吹き付ける日
すっかりすべてをやめてしまって私は
もう五十万年も前に歩き回ったあの野原の林のあいだに
小さな雪の洞を探して ゆっくりと身を横たえる
そしてそのまま
なだらかな眠りへと滑り落ちていっても良いようだ
もう
美味しい食べ物も
身を濯ぐ飲み物も充分に頂いた
今日私はこんなにも力弱く
天を降る蛍光に
目を細めている

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