或る会話/HAL
 
ーナリストではないようだ。気を 
 悪くしないで欲しいが、キミは野次馬となんら代わりはない』
『……』
『多くのジャーナリストが戦争取材で命を落とした。きみももちろん知っていると
 想うが、キャパもキョウイチもタイゾウもベッドの上では死ねなかった。しかし 
 それは彼等が命を賭けたことではない。彼等は臆病だった。彼等だって自分の命 
 が惜しかった。そういう意味で実に臆病だった。彼等が戦場で死んだのは、それ
 ほどに臆病であっても死ぬという現実だ。命を賭けることを暫々、美談として
 語るひとが多くいる。しかし、私はそんなひとびとを偽善者だと断定する。キミ   
 の前線取材を許可できないのは以上の理由だ。これで失礼する』
『……』
最後にその将校はドアのノブを握ってこう言った
『なにもわざわざ殺されにいくことはないだろう。サイゴンもいつ死ぬかも分から 
 ない街だ。若い命を粗末にするな。速く日本に帰ることだ』 

会話内容:前線取材許可依頼
会話場所:サイゴン・アメリカ駐屯基地
会話時間:20分余り

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