春工房/佐野権太
 
堅く握り込んだ
こぶしをひらくと
てのひらに花が生まれる

目を閉じて
かすかな匂いを取り込み
脳によろこびを与える

水をはった
ガラス鉢に浮かべて
しばらく眺める
しずかな、約束のように

まっ白い紙を取り出して
やわらかい線をかさね
素描する
水を吸いあげる喜びに耐えかねて
ときおり
くるりとかたちを変えるのを
楽しみながら

色はつけない
みるものの
感性に委ねることにしている

そうしてひとつの
ある覚悟をもった
春が生まれる
やわらかい
一編の詩のように





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