淵の眼/イナエ
 
視覚には捕らえなかったけれど
感じてしまった
小さな淵に潜んだ眼

その頃
山奥に完成したダム湖では
人を呼び 春を楽しませようと
貸しボートを浮かべていた

まだ観光の人もいない早朝 
ダム湖の上流へボートをこいでいった
湖面を割って進む舳先から
波が八の字を描いて岸に伸び
湖面に写る岸上の桜花を乱した

やがて
両側の山が湖面に迫ってくると
湖水の色と山の色が融合し
湖から新芽を出した樹が生えていた

細い支流の先に滝があるらしく
水の堕ちろ音がかすかに聞こえる
音に誘われて支流に入り込む
風が出たらしく樹林がざわつく

川底の巨岩が 
水に
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