カタツムリの抜け殻/るるりら
 


おとうとは泣く

なにもかも すべてはいつかは うしなわれてゆく
涙の雨が
ずっと つづいて
おとうとは泣いていたのだ
    だれもかれもが死ぬなんてしらなかったんだ

きえないはずのあつい友情のあかしも
手触りのあるものも ないものも
なにもかも すべて流れていったと
一枚の絵の中で おとうとは泣いていた




鎧戸を開け ガタピシと音をたてる曇りガラスも
すっかり開けきると その窓からは
山からの小川がみえ
空気は 小雨で湿り
桜が 光の高度を上げていた

紫陽花の絵を明るい場所に 置きなおすと
光が いちはやく 絵の中の おとうとを照らした


山からの小川は
かたつむりの路のようだ
輝いている
おとうとは
すべるように 桜の光さすほうへ
ゆっくりと 往った


◇◆

メビウスリングというサイトの、プロ詩アンソロジー参加作品
http://mb2.jp/_aria/828.html

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