カタツムリの抜け殻/るるりら
 

【カタツムリの抜け殻】


実家には もう人の気配は無い
生気のない 家に行くには 迂回路しかなく
すぐそこに家はあるのに ふるい路は
家を まの当たりにしていながら ゆるやかに曲がり
なかなか到達しない

一枚の絵に無性に会いたくなったのだ
祖父は日本画をこよなく愛する人だった
日本画の胡粉を使った絵の行程は
貝の死んだ匂いがする

透明な胡粉を重ね すべての色は
ほのかに虹を宿す 透き通った時間が
生気のない家には 閉じ込められている

とうとう家につく
おとうとを 見つけた
遠い昔に死んだ 祖父が描いた 紫陽花の絵の中だ
お爺ちゃんが紡ぐように
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