エイトビット摂氏三十六度/魚屋スイソ
カモメが鳴いている。ゲームボーイが発するエイトビットの効果音に似ている。ぼくらのあらゆる体液を染み込ませたエロ本だらけのこの廃小屋が、蒸し暑い潮風を吸ってさらに膨張している。ぼくはかげろうの中にいる。フォーマットされていながらも、正しいデータとして認識されない曖昧な存在として、毎日を放出と吸収の繰り返しで生きている。バイナリを書き換えたい。ちぐはぐな密度を詰め込んだ摂氏三十六度の肉体を置き去りにして、どこか遠くで凍えたい。皮膚の表面が硬化している。虫か植物の粘膜のようにまとわりつく濁った汗が廃小屋の埃を付着させ、体温の逃げ道を塞いでいる。きみは眠っている。白いワンピースの裾からのぞく太腿に、板張
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