二千十三年三月十一日に/夏美かをる
 
もないというのに

『復興』という言葉が何度繰り返されても
いくら瓦礫が片付いても
無念は、悲しみは、苦しみは
もうその地に深く刻印されてしまった
彼らはいかほどの淵に未だいるのか?
私の乏しい想像力では
推し測ることすらできない
そのことの罪を
娘と共にこの背に負う

頬をすり寄せてくる娘を無理やり
胸の前に引き寄せ、
娘の体ごと
命ごと
包み込むように きつく抱き締めると
飛び出す「きゃっ、きゃっ!」という
無邪気な歓声
それが胸に突き刺さり
呼吸が一瞬苦しくなる

「ねえ、このテレビつまらないよ。
 変えてもいい?」
しばらくして
娘が私の腕を振り解きながら言う
旦那と上の娘は午後の日差しの中で
一緒に本を読んでいる

伸ばした私の手の延長線上で
確かに今息吹いている日常を
しっかりと脳裏に焼き付けながら、
海の向こうの
尚もくすぶり続ける大地の上で
静かに眠る魂と
失われた日常に慟哭しながらも
新たなそれを重ねようとしている
決して眠らぬ人々に
そっと祈りを捧げる
今日という日のこの瞬間

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