ちゃん/刑部憲暁
ちゃん をつけて
呼ばれてた
こどものころに
たくさんの人から
父の声 母の声
いとこに おばに
友だちの声
ちゃん がひびいてる
ちゃん の呼び名が
この身に 耳に ついている
呼ばれた子は もういない
呼んでいる人も 今はいない
その子もその人もみな呼び声にかわって
鳴りやまない呼び声になって 赤ちゃんの
肌みたいにあたたかい やわらかい声に
変わってぼくの身体を 流れている
ちゃん の呼び名を思い出すと
不思議な時が流れはじめる
人も 時も 四十年なんてものも消えて
空気も心も みな入れ替わって
ちゃん の呼び名の中に 流れはじめる
ちゃん の呼び声つかい
息 しはじめる
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