奇跡/三田九郎
 
君の知っている僕が
僕のすべてであるはずがない

僕の知っている君が
君のすべてであるはずがない

人が数え切れる程度の多面体であるわけがないし
ましてや表と裏だけで構成されているはずがない

君の知っている君が
君のすべてではないし

僕の知っている僕が
僕のすべてではない

品行方正な男がただ
品行方正であるはずがないし

悪女がただひたすら
悪女であるはずもない

愛するとか別れるとかいうことは
わかるとかわからないとかいうこととは別の奇跡だ
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