不眠症/彰
昼間吐き出した言葉が
口腔にわだかまって
何時もよりも
唇が重たい夜は
眠れない
まばたきが呼び水のように
なっているようで
目を閉じるたびに
一粒ずつ言葉がこぼれて
ぱたり
ころんと転がって
部屋の隅に集まってゆく
それは
咽を圧迫する程の容積が
空っぽになるまで
続くと推測されるので
押入れの輪郭が
徐々にぼやけてゆくのは
止むを得ない
東の空が白み始める頃には
高さ五糎ほどの
人型に敷き詰められて
それはそれは
耳の傍で姦しく
眉間の皺にまで
入り込むという始末だ
そんな日は
仕方ない
ため息と共に
起き上がれば
髪から
耳から
肩から
腕から
ばらばらとこぼれるので
引き戸をあけて
布団と一緒に
押し込んで
昨日の続きを始めるしかない
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