すぎてゆくもの/
佐野権太
ひとであったような気がする
初めから
ただの意識だったのかもしれない
どちらにしても
たいして変わりないだろう
何がしたい、なんて
真面目にきくなよ
浮かんだそばから
シャボンみたいに消えるから
ただ
痛みから逃れたいだけだった
呼吸も、排泄も
きみを求めたのも
きっとそういうことだろう
折りかさなった風景に倒れ込む
水彩はこの花の色のように
うすくのばされて
僕の小さな正体さえ
曖昧な風にまぎれてゆく羽
まだかよわい空、三月
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