純潔な眠り/HAL
 
かった
太宰が【斜陽】の登場人物のなかに書いた男が
自殺した遺書に記した
《生きる最後の手段として阿片を用いました》の意味と 
実際に阿片を吸った開高氏の残されたことが
本当かどうかの3つが動機だった

もちろん朱の国では即刻死刑だし
政治的思惑が働いたとしても終身刑が精々

香港でも官憲に捕まると
残りの一生を香港の監獄で生き長らえるか 
下手をすれば死刑の判決が下される
日本大使館も力は貸してくれない

でも好奇心が勝ってしまったんだ
啓徳空港からエア・フランス機が飛び立つまで
ぼくは怯えつづけなければならなかった

裁判に掛けられれば死刑になる逃亡犯の気持ちが
本当に良く分かったよ

幸いに中毒にはならなかった
純度の高い阿片は中毒にはならない

得たものは敬愛する作家が言った通りの
美しい無とも呼べるもう二度と味わえないと
断言できる短い眠りだった

でも生まれて初めて純潔な眠りがあるんだと実感した 
それ以外に阿片が教えてくれたことは何もない
ほんとうにそれ以外には何もない

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