深夜のナポリ譚/faik
 
 どこかの工場で大量生産された洒落もへったくれもない皿に盛られた、深夜のバイトシェフが終業予定時刻を気にしながらぼんやり作ったであろうナポリタンを幸せそうに頬張るお相手の方には、どうやら私が自分と同じように終始ナポリタン一択でこの店に来た人間のように見えているわけで。
 それがなんとなく、可笑しいというか。うん、まあこれはこれでよかったかもなぁと、うっかりこちらが無意味な悟りに入ってしまうような顔でしたので、お相手の方には悪いけれど、やっぱり私はナポリタンはあと一回ぐらいで十分だなあとちゃっかりこっそり思いつつも、裏腹。一口、また一口、と。うっすらと煤けた繁用のフォークに、大して好きでも有名でもないナポリタンを、ぐるっぐるっぐるっとこう、巻きつけてしまうわけです。

 嗚呼、次はなんて言えばこの人にナポリタンを食わされずに済むのかなあ、とか、大して働きもしない深夜の頭で、黙々もぐもぐと考えてしまうわけです。
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