看取り(2)/吉岡ペペロ
けど微笑んでいる。
祖国のことを思い出すことはもうあまりなかった。だけど祖国の太陽のことはよく思い出す。
当直の日は、息子さんもここに泊まればいいわ、
息子の晩ご飯やお迎えはどうなるんでしょう、
リーダーがめんどくさそうな笑顔になった。
あなたはお子さんと一緒に夕方から出社するのよ、
自分たちの生活がざわめいた。ざわめいて不協和音のようなものが伸びていった。
晩ご飯がつくれなくなるなと思った。たしかにお金はもっと稼ぎたい。息子にはここの食事のほうが合うかもな。
それよりも深夜の仕事の内容のほうが気になった。
そのミトリというのは、どういう仕事なんでしょうか、
リーダーが噛んでいたガムをメモ用紙にのせて口元を結んだ。
ここに入居されている方の、最期を看取るのよ、
最期?
昼まえの食堂に昼餉の香りとあたたかさが半透明になって漂っていた。
顔が熱くなってぼくはその意味を理解している自分を知った。
太陽がしずかだ。浅い深呼吸をすると口のなかの紅茶の匂いが広がった。
この施設にたゆとう加齢臭よりも若いぼくの匂いだと思った。
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