待つひと 待つこと/HAL
 
「いってきます」とあなたが私に告げてから
もうどのくらいの水が橋の下を流れたのでしょう

おんなの直感でしょうか
もうあなたは私の元へは帰らないと
私はそう想ってあなたを見送りました

あなたがこの故郷を去る汽車に乗り込むとき
多くのひとが日の丸を振り万歳三唱を挙げる様を
私は余りに鋭い痛みを悟られないよう
涙を流さないよう同じことをしていました

でもあなたは帰ってきましたね
遺品と呼ばれる一度だけ
ふたりで撮った写真一枚だけになって

私とあなたを引き裂いたのは
或る日突然町長さんがお越しになって
「おめでとうございます」と言って
持ってこられたたった一枚
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